黒衣の衣装を身にまとい、瞳を隠した女性。
それはやスパーダにとっては、ついこの間出会った人物だった。








「…てめえはあの時の…」

「我が名はシュヴァルツ。人の仔、それから世界樹の落とし仔」




隠された瞳は何処を見据えているのか、淡々と発せられる声は温度を全く感じさせない。
けして大きな音量ではないのだが、その声は頭に響き渡る。




「自らの闇に身も心も委ねてしまえば楽になれたのに」

「へっ、そんなのお断りだぜ!!あんなとこにずっといたらおかしくなっちまう」





「そうか?考えることも止め、己の意志を捨てれば苦しみから解放される。この者達のようにな」




シュヴァルツは右腕をすっと上に上げた。
その瞬間、赤いものがとスパーダの顔に飛び散った。
リアラとコレットの悲鳴も響き渡る。





「きゃあああああああ!!!!」

「セネルっ!!!ワルター!!!」



横たわる二人の仲間、には何が起こったのか分からない。
駆け寄ろうとしたリオンには炎が襲い掛かる。




「ぐあああああっ!!!」

リオンっ!!!くそっ…誰が………っ!?!





スパーダが声を失う。
三人の回復をリアラに任せ、がスパーダの見た方向へと顔を向けた。

するとゆっくりスパーダの体が傾く。




「………
逃げ…





スパーダの向こうにいたのは、金色の髪をなびかせた冷静な瞳。








「……ジェ…イド…?」








瞳は暗黒を映し出していた。
呼びかけても、彼が笑う事は無い。
手にした槍からは赤い液体が滴り落ちていた。








そして、ジェイドだけではなかった。





共に旅してきた、姉や兄のような存在。


「リフィル…?…ガイ…?」


いつも冷静で、でも熱くて頼りにしていた。


「ジェイ…アッシュ…?!」




各々が武器を構え、虚ろな瞳をしている。














いち早く動いたのはアッシュとガイだった。
二人の剣にも血がついている、これはセネルとワルターを斬った剣。



「やめ…やめろ…!どうしたんだよ、二人共!!!」





は己の剣で二人を受け止めた。
けれど、の言葉など二人には届かない。







「危ないっ!!!」

「え?」






二人に加え、ジェイまでもに斬りかかる。
過去、を助けてくれた苦無。それがに向けて一斉に投げられた。






「(ダメだ…この距離じゃ、ガイやアッシュにも当たる)っ……
!!!


力任せに二人を弾き飛ばす。
しかし体制を戻せなかったに容赦なく苦無は飛んでくる。




「っあああああ!!!」


「「っっっ!!!」」






体が地に倒れる。
幸い、致命傷は負ってない。

けれど、思うように体が動かせなかった。





「…あ…っく…(毒…?体が痺れて…)」




ジェイの苦無に毒が塗ってあったのだ。
倒れたにトドメを刺そうと、再び苦無を構える。



「だめぇっ!!」

を庇うようにコレットが飛び出す。
けれど彼女の力ではジェイやアッシュと言った前衛組を抑えることなど出来ない。
果敢にもチャクラムを構える彼女だが、足は震えている。






「下がれコレット!!!」


コレットの代わりに二人を受け止めたのはリオン。
軍で実力を積んできたお陰で、不意打ちだった攻撃もなんとか急所を避けていた。



「リアラっ!急いでセネルかスパーダを回復しろ!!」
「で、でもがっ…!!ワルターだって!!」
「全滅したいのかっ!!!今はコイツ等を抑えられる奴が必要だ!」



リオンの言葉に急いでリアラは慌てて詠唱を始める。
致命傷を負ってないとは言え、負傷したリオン一人では長い間三人も抑えられるわけがない。




「湧き上がる命の泉よ 全てを癒せ……リザレクションっ!!!


リアラの全体回復魔法が唱えられた。
リオンを含め、全員の傷が癒されていく。

ただ、だけは毒の所為で気を失ってしまっている。




「大丈夫かリオン!」

「ちくしょっ油断した!!」




回復したセネルとスパーダが駆けつけ、アッシュやガイを抑える。
ようやく戦力が増えた、と思ったその矢先






「気をつけろ!!!魔力の高まりを感じる!!」

ワルターの叫び声に気付いた時は遅かった。




先程まで何も手を出してこなかった二人から感じるマナの高まり。







「聖なる槍よ、敵を貫け。ホーリーランス!!

「受けよ、無慈悲なる白銀の抱擁。アブソリュート!!









「「「っああああああ!!」」」

「「きゃあああああ!!」」






攻撃範囲から外れていたワルターと以外の全員が攻撃を喰らった。

気絶はしなかったものの、立っているのがやっとの状況だ。









「闇を受け入れぬから、苦しみを味わうことになるのだ…。愚かな仔等よ…」



シュヴァルツはゆっくりと地上に降りてきた。

倒れているの傍に寄ると、まるで母が子どもにするようにゆっくりと髪を撫でる。






「わかったであろう。人間とは闇を抱えた存在。幾らお前が光になろうともその全てを照らすことなど出来ぬのだ。

 仔等のようにどれだけ表情に出さずとも、心の奥底に隠れた闇は消える事は無い。

 それでもお前は世界を守ると言うのか、この愚かな仔等の住む世界を。たとえ己が身を犠牲にしても」












「何を……」


ワルターはシュヴァルツの言っていることが理解出来なかった。


世界を守る?

の身を犠牲にする?


ワルター達のことを“人間”と呼ぶシュヴァルツ、それはまるで自分は人間ではないと言っているようで。
そして





もそうだと言っているようで






















「死ぬ為に…生まれたわけじゃ…ねえ…」




ぽつりと呟いた声、けれどそれは全員が拾った。







「オレはオレの意志で…やりたいことをやってる…。世界を…守るなんて…おこがましいこと思っちゃねえ…」


まだ解毒はされていない。
けれど倒れていた体はゆっくりと起き上がる。





「ただ…“生きたい”だけだ」




呼吸は荒い、手足だって震えている。
けれど瞳は光を失っていない。






「マーテルがオレに託した分まで…オレが…この目で世界を見て…色んな人と出会って…」





剣を握りなおし、杖代わりに立ち上がる。








「その為にこの世界を失くすわけにいかねえんだよ!」









どこからそんな力が来るのか、剣から手を離し走り出した。
向った先は正気を無くした仲間の許へ。
攻撃を最小限に避けつつ、近くへ走る。



ワルターにしたように、手の平を向け煙を吹き払うイメージをしてマナを放出する。







「みんな…っ…
目を覚ませぇぇぇ!!!!」